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『風立ちぬ』宮崎駿 [映画]

宮崎駿監督映画『風立ちぬ』を観てきました。

一言で表すなら、とても美しい映画でした。

絵がとても美しい。
大正から昭和にかけての日本の風景。

賢治好きの私としては
どうしても、賢治の生きた時代の建物や乗り物が臨場感いっぱいに描かれているのを見て
それだけで感激してしまう。

野原を走る蒸気機関車の姿に、銀河鉄道を重ねてしまう。
きっと賢治も嘉内も、こんな風景を見て汽車が夜空を翔ることを夢見たのだ…と。

関東大震災による一面焼け野原の東京も
嘉内はこの惨状を目にしたのだなぁ、と。

美しい八ヶ岳。
空。
雲。

宮崎駿さんの母は韮崎の人だったそうです。

堀辰雄が恋人とともに入所していた富士見高原療養所は、
茅野と北杜の間、JR中央線富士見駅の近くにありました。
旧建物は資料館となっていたそうですが、現在は取り壊されてしまっています。
復元公開は2015年以降の予定とのこと。

二郎少年の夢のシーンから始まるこの映画は
どこまでが夢でどこから現実かが曖昧に描かれています。

思うに、私たちが生きているこの「現実」というのも
いったい何が現実で何が現実でないか。
はっきりしているようで、実は誰もが皆、少しずつ違う夢を見ているような世界かもしれません、
なんて、私なんかは半分夢心地で生きているのでそう思ってしまいます。

冒頭のシーン、二郎が気持ちよく小型飛行機に乗っていたかと思えば
突然現れた不気味な飛行物体に襲われ墜落してしまいます。

結局、最後まで二郎の飛ばす飛行機は
気持ちの良い飛行を全うすることができなかったような印象でした。

これはいったいどういうことなんだろう。
人生、これでゴールということはなく最後まで挑戦だということ?
飛行機の開発自体が持つ運命、つまり戦争という不穏な影につきまとわれるといいうこと?

飛行機の残骸や何かが落ちてくるシーンはすべて
ドシンやガシャンという効果音ではなく
人間の声でできていました。
それがまた、恐怖心を増大させられたのです。

純粋に美しい飛行機を創りたいという二郎の夢は
葛藤こそあれ、時代の流れに抗うこともできず
たくさんの前途ある若者の命を奪ってしまうことになります。

一人一人が目の前の仕事や夢や愛を追いかけて
精一杯生きているだけなのに
そしてそれが人生で最も大切なことであるというのに
「時代」は容赦なく全てを巻き込み利用し破滅へと導く。
戦争というものは、そういうものだと思う。

「日本はいったいどの国と戦争しようとしているのだろう」
という二郎のモノローグが何度か出てきたように記憶しています。


なぞのドイツ人カストルプの
「日本はチャイナと戦争したり、満州国を作ったり、国際連盟を脱退したり、すべて忘れる。破裂する。ドイツも破裂する」という言葉は何を意味するのだろう。
「すべて忘れる、破裂する」という言葉が恐ろしい。


全体を通して二郎の夢には、
イタリアの著名な航空機設計者・カプローニが夢先案内人として現れます。

関東大震災の直後には
「日本の少年よ!まだ風は吹いているか!」「はい、大風です!」
「では、生きねばならん!」

技術で20年も先を行くドイツの視察を終えてヨーロッパを経由して帰ってくるときには
「空を飛びたいという人類の夢は、呪われた夢でもある。飛行機は殺戮と破壊の道具になる宿命を背負っているのだ…」
「僕は美しい飛行機を造りたいと思っています」
「創造的人生の持ち時間は10年だ…君の10年を、力を尽くして生きなさい」

カプローニはどうしても
賢治の「銀河鉄道の夜」に出てくるブルカニロ博士と重なってしまいます。

二郎は結核の療養所から抜け出してきた菜穂子と結婚し
一緒に暮らし始めます。
エゴイズムだという上司にも「僕たちには時間がないのです…覚悟しています」
昼間一人で部屋に寝かせていることに怒る妹に
二郎は「僕らは今、一日一日をとても大切に生きているんだよ…」と答えます。



  風立ちぬ いざ生きめやも


「風が立った 生きるなければならない」


関東大震災の後、大戦への道をまっしぐらに進んでいった日本、
この状況は恐ろしいことに現在とぴったりと重なります。

東日本大震災が起こり、
経済不況に不安を煽られ、右傾化の政党に引きずられていく。
「忘れる、破裂する」と言ったカストルプの警告に、
耳を貸さねばならないのは私たち一人一人ではないのでしょうか。

夢の結晶であった飛行機は
山のような残骸となりはてる。
たくさんの若者の魂は空に消えてゆく。
これ以上の敗北があるでしょうか。

それでも、挫折した二郎の前に
亡くなった菜穂子が現れて言う、
「生きて」と。

亡くなったひとは、生きている人と共に生きる、だからこそ、
生きなければならない。

どんな時代だって同じなのだと思う。

 私は、生きることを試みなければならない。

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アヨアン・イゴカー

見に行きたいと思っている映画です。この記事を読み、見に行きたいと思いました。
ちなみに、母方の伯父は富士見療養所の副所長でした。
by アヨアン・イゴカー (2013-08-31 08:21) 

signaless

アヨアン・イゴカーさん、ありがとうございます。

伯父様が副所長さんだったとは驚きです。
富士見診療所には復元されてから一度行ってみたいです。



by signaless (2013-08-31 22:45) 

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